山本英博クリニック 山本 英博院長 (渋谷) インタビュー

「多汗症治療の第一人者。代償性発汗治療にかける想い」山本英博クリニック 山本 英博院長

手汗や多汗症の専門外来として多くの患者さんの治療に携わり、症例数は10,000件を超えるという山本先生。全国でも数少ない「代償性発汗治療」のスペシャリストでもあり、患者さんへ向けた教室も開催している。

研究開始当時は「異端」として冷たい眼差しを受けながらもなぜ研究を続けたのか。「代償性発汗の治療は、患者さんにとって"最後に掴む藁"なんです。私がここで投げ出したら、患者さんの最後の希望を断ち切ることになってしまいます。」そう語る山本先生。患者さんと真摯に向き合う姿勢とユーモア溢れるトークが印象的な山本先生から、多汗症治療開始の経緯と治療にかける想いなど、たっぷりとお話を伺った。

山本 英博院長インタビュー「多汗症」とは具体的にどういったものですか?
多汗症まず多汗症の特徴として、季節に関わらず冬でも症状がみられること。緊張や精神性刺激に左右されるもので、単に発汗量が多いだけではありません。発汗するときとしないときの差が大きいのです。

また多汗症は、幼少期から症状が出始めます。というのも、本来備わっている発汗機能の問題で、大人になってから発症するというものではありません。

もともと呼吸器外科とのことですが、なぜ多汗症治療の分野に進んだのでしょうか?
1985年に呼吸器外科の教室に入っていたとき、多汗症治療というのはありませんでした。日本では1996年から多汗症治療が保険適用となり、大学病院で多汗症治療を始めると、今まで悩みを抱えていた患者さんがたくさんいらしたのを覚えています。

多汗症治療は内視鏡を使った治療法なのですが、大きな病院以外で内視鏡の治療をしているところはありませんでした。私のいた大学で多汗症の内視鏡治療にあたっていたのは、私一人ぐらいでした。当初、多汗症治療を含め内視鏡治療は「最新」というより「異端」という扱いでしたから、みんなの眼差しが冷たかったのを覚えていますよ(笑)。

呼吸器外科1998年に2mmの切開1か所で手術が可能となった(右写真)のをきっかけに、多汗症治療の患者さんが増えてきました。当初、私は肺がんの手術も受け持っていましたが、最終的には肺がん治療の患者数を追い抜き、初期の頃の10倍くらいの患者数となりました。

ただ、症例数が増えていくと副作用も出てきます。治療箇所とは別の部位から多量の発汗をする「代償性発汗」というものが、3~8%ぐらいの患者さんに見られるようになりました。

すべての患者さんをハッピーにしようと手術に臨み、最善を尽くしてもそれによって副作用が出てきてしまう。理想と現実の狭間で、多くのドクターがこの分野から去っていきました。しかし私は、患者さんの一人に「なんとか治療してほしい、先生の活躍に期待している」と声をかけてもらったことがきっかけで「トコトンまで取り組まなければならない」と思いました。しかし、ここでまた新たな壁が立ちはだかりました。

治療成果を数学的に検証するには、相当多数の症例数が必要です。しかし代償性発汗は、100人治療して数人しか発症しない副作用。肺がん治療などとの掛け持ちでは、必然的に症例数が不足します。それならば「多汗症専門でいくしかない」と思い、大阪に医院を構えました。現在は東京の渋谷に医院を構え、症例数も11,000例を超えました。

多汗症専門外来

3~8%の患者さんに発症する代償性発汗は、治療技術に関係なく発症してしまうのでしょうか?
3~8%の患者さんに発症する代償性発汗は、治療技術に関係なく発症してしまうのでしょうか?はい。手術する部位や処置の場所を変えることで、数値に若干の変化が現れます。しかし現代医学では、代償性発汗の発症数はゼロにはならないと思います。というのも、患者さんによって神経回路は異なりますし、代償性発汗の発症する要因がはっきりと解明されていないからです。

とはいえ、鼠径部から上の汗に関しては把握できています。これは私が多くの治療に携わってわかったことですが、教科書の記載に間違いがあるのではないかと感じることもあります。

多汗症治療は、内視鏡手術の中でも容易な手術という分類でした。しかし実際には奥が深く、代償性発汗が発症すれば「治っていないじゃないか」とクレームを受けることもあります。それで、治療をし続けるドクターが減ってしまいました。

代償性発汗しかしここで私まで治療をやめてしまったら、代償性発汗や多汗症に悩む患者さんの願い・期待を断ち切ることとなってしまいます。代償性発汗は悪性疾患ではないため、亡くなることはありません。だからこそ、しっかりと完治するまで向き合い、多汗症治療を投げ出したくないと思っています。

しっかりと向き合い、患者さんと共に試行錯誤することで結果が出てくることもあります。今では患者さんからキツイお言葉をいただいても「先生、頼むよ、もっと頑張ってくれ」という「叱咤激励」だと思えますね。

代償性発汗の治療が可能となってきた背景にはどのようなことがあったのでしょうか?
代償性発汗の治療神経回路は若干異なるためすべての患者さんに100%当てはまるものではありませんが、症例を積み重ねることでだんだんと体全体の回路図もわかってきました。体発汗に関係する交感神経は、200平方センチメートル程度の皮膚の面積をモザイク状に支配しているのではないかというところまで突き詰めてきました。

手術中には、交感神経を順番に刺激して血流量の変化を観察するなど、さまざまなことを行います。多くの先生はここまで行わないと思います。私にとってこの代償性発汗の治療は「患者さんが最後に掴む藁」だと思っています。どんな手術でも空振りは許されません。この治療は特にそうだと思います。そんな思いで、私は治療に臨んでいます。

治療の課題点などはありますか?
「解決した」と言える一定レベルまできたと思いますが「克服した」と言うには難しい側面はあります。それは、すべての人に同様の手術を行えないという点。患者さんによっては、血管と神経が非常に近かったり癒着がみられたりするときは、神経刺激や切除などの処置が困難な場合があります。開胸手術であれば解決できる例もたくさんありますが、大きく切開すると胸壁の運動障害などのデメリットもあり、多汗症治療のメリットがなくなってしまうことが難点です。

現在も皮膚切開は3mm程度のneedle surgeryで行っているため、開胸手術に比べて手術操作の自由度が少ないことが課題と言えます。手術器具の工夫を重ね、開胸手術より優れた内容もありますが、まだ及ばない部分も残っています。

また、代償性発汗に至るまでの経緯が完全には解明されていないという課題もあります。これまでの代償性発汗の手術では、別の交感神経を切除し、その神経を用いて多汗症治療で切断した神経を再建します。しかし、新たに神経を切断したことが有効だったのか、再建したことが有効だったのかは未だに決着していません。また、人によって異なる神経回路を見極めるのは非常に大変です。そのため、患者さんごとに神経回路を把握し、多汗症治療の副作用(代償性発汗)をなくしていくことが今後の課題です。

治療の課題点たくさんの患者さんに協力していただいたからこそ、ここまで解明できてきました。昔は本当に「節度ある医者は、この治療はやめるものだ」と言われていましたよ(笑)。でも「先生、やめないでくれ」って患者さんからも言われましたし...。

女性では、化粧ができないなど、目指す仕事に就きたいのに多汗症が原因で苦労をする患者さんもいらっしゃいました。あるとき「本当は美容系の仕事に就きたいのに、手汗が原因で本当に苦労しているんです」と診察室で涙を流す方がいました。今は着実に解決策も見えてきましたし、この治療に携わってきてよかったと本当に思います。多汗症治療において、より少ない手術侵襲で、よりよい治療成績を目指していきたいと考えています。

院長プロフィール山本英博 院長
<経歴>
1985年 神戸大学医学部卒業
      神戸大学医学部第二外科講座に入局
       姫路循環器病センター・心臓血管外科(研修医)
1986年 新日鉄広畑製作所病院・外科(研修医)
1988年 神戸大学医学部第二外科(医員)
1990年 国立療養所兵庫中央病院・呼吸器外科(医員)
1993年 国立癌センター呼吸器外科研修・学位取得
1994年 国立療養所兵庫中央病院呼吸器外科医長
1995年 神戸大学医学部第二外科講座助手
1998年 日本呼吸器外科学会指導医取得
2000年 Carl -Storz賞(日本内視鏡外科学会賞)
2002年 神戸大学医学部第二外科講座講師
       山本・兼平クリニック 開業(多汗症治療を専門として診療を行う)
2008年 山本英博クリニックに改名

<資格等>
日本呼吸器外科学会評議員・指導医
日本内視鏡外科学会評議員
Needlescopic surgery研究会 世話人
Kobe Endoscopic High Technology Conference 世話人

山本英博クリニック 基本情報

住所 東京都渋谷区道玄坂2-28-4 イモンビル7階
電話番号 03-5459-5062
アクセス JR山手線 渋谷駅より徒歩5分
診療科目 多汗症
診療時間 月・火・土曜10:00~12:00/金曜16:00~18:00(土日は手術日)
休診日 水曜、木曜

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